監察官・羽生宗一「留置場で疑惑の制圧死 監視カメラの死角の真相を追う!!逆転無罪を勝ち取った女弁護士の疑惑!?」

■事件発生

成城北署の留置場内で拘置人が看守に制圧され死亡する事件が発生した。
こうして、羽生は監察業務を開始する。
不審な死を遂げたのは痴漢容疑で逮捕拘留されていた香山守。
香山は深夜になって急に「ここから出せ!」と騒ぎ出した。
其処で看守係長の大下光男の立ち会いのもと、看守の北村浩二が背後から首に腕をまわして制圧した。
ところが、気付いた時には香山は意識を失っていた。
大下の指示により北村がその場を離れ救急車を手配したのだが、時既に遅く死亡していたと言う。
羽生の監察聴取に対し、大下も北村も真摯な対応を示しており正当な制圧だったと思われたが……。
羽生は香山が制圧された場所が留置場内の防犯カメラ映像から死角となることから調査を続行する。
また、香山が彼の弁護士・三池塔子の接見を受けてから不審な様子を示していたことも判明。
羽生は塔子を訪ねるが、彼女は香山を励ましただけと説明する。
その翌朝、月島で篠田美貴が刺殺体で発見された。
ところが、この美貴こそが香山を痴漢容疑で訴えていた女性であった。
同じ頃、芸能プロダクション社長・光岡孝之が記者会見を開いた。
光岡は香山の上司であり、彼の無罪を大々的に訴えたのだ。
これにより追い込まれることになった山岡警務部長は羽生に早急な結論を求める。

 

■香山は3年前に逮捕されていた
矢先、香山が3年前に殺人容疑で逮捕されていたことが明らかに。
被害者とされたのは光岡の事務所に所属していた森末春菜。
春菜は事務所を辞め実家に戻っていたのだが光岡たちと何やら揉めており、訪ねて来た香山に殺害されたとされていた。
この際に香山の弁護を担当したのが三池であった。
塔子の手腕により香山は無罪判決を勝ち取っていたのである。
そんな塔子と接見した香山がその夜に錯乱したのは何故か!?
羽生が疑問を抱く中、新たな殺人事件が発生する。

 

■光岡の転落死
なんと、光岡が謎の死を遂げたのだ。
実は美貴殺害は光岡の犯行であり、これを悔いての自殺と思われたが……。
だが、羽生はこの結論に納得していなかった。

 

■塔子は北村が犯人だと思っていた
すると、塔子が誰かを庇っていることが判明。
追及したところ、塔子が庇っていたのは北村であった。
3年前、塔子は香山の無実を信じ弁護にあたっていたのだが春菜を殺害したのは香山だったのだ。

■芸能事務所の闇

実は光岡の事務所は政財界の有力者に事務所所属の少女と薬をセットにして貢いでいた。
春奈はその秘密を知っていながら、事務所を離れようとした。
有力者たちの名前が漏れたら大スキャンダルだ。
そして、香山が口封じの為に春菜を殺害した。
しかし、これを知らない塔子は香山を無罪にしてしまったのである。
しかも、当時の春菜には交際相手がおり、これが北村であった。
どうやら、春菜は自身の行動を恥じており、北村に顔向け出来ずに事務所を辞めてしまったらしい。
これらの事実を塔子は最近になって知った。
塔子は収監中の香山に接見し、これを確認したのである。
すべてを知った塔子は北村に罪悪感を抱いており、其処で彼を庇ったのだ。
では、やはり香山の死は制圧中の事故ではなく他殺なのか?
そして、光岡殺害も北村の犯行なのか?
しかし、羽生はこの見解に異を唱える。

 

■真犯人

そもそも、香山殺害時に不審な行動があったのである。
何故、大下は自身で救急車を呼ばなかったのか?
また、北村に呼びに行かせたことで大下は香山と2人きりになっていた。
そう、香山殺害犯は大下だったのである。
確かに北村も香山を絞め殺そうとしていた。
だが、大下に制止されたことで阻止されていたのだ。
その後、意識を取り戻した香山だが、大下に殺害されたのだ。
もちろん、光岡殺害も大下の犯行であった。
羽生に指摘され罪を認めた大下は動機を語り出す。
大下と北村は古くから家族ぐるみの付き合いで、大下は北村を我が子のように可愛がっていた。
3年前、北村は春菜と結婚を考えていた。
だが、春菜は不適切な接待を行っており、自分が北村に相応しくないと考えていた。
ある日、春菜は大下を呼び出し相談した。
大下は北村の将来を考え、また息子とも思う彼を取られることを怖れて春菜の危惧を否定せずに助長した。
結果、春菜は事務所を辞めて故郷に戻ったのだが、香山に殺害されてしまったのだ。
大下はこれに罪の意識を抱いていた。
そんなところに、香山が収監されて来たのである。
しかも、大下は塔子と香山の会話から彼の犯行を確信した。
其処に北村による制圧騒動が発生。
大下は北村を遠ざけると香山を殺害したのであった。
そして、香山と同じく罪を罪とも思わない光岡も殺害したのである。
こうして、大下が逮捕された。
大下は懲戒免職処分、北村は署長からの説諭となった。

■感想
「監察官・羽生宗一」シリーズ第3弾。
大下は北村の為ではなく、春菜を否定してしまった自身の贖罪の念からの犯行だったんですね。
だからこそか、あまりにも北村に負担となり過ぎる方法だったような気がします。
大下曰く、闘病中の妻・和美が亡くなってから自首を考えていたとのことですが、その間に当の北村が責任を追及されてしまえば我が子とも思っていた筈の北村の将来は台無しです。
仮に後程名誉が回復されても、その頃には北村は退職していた可能性すらある。
そもそも、今回の件で北村は苦しい立場に追いやられてしまったし。
あれだったら、香山が生きていた時点では普通に救急車を呼んで、少なくとも北村を巻き込まないことを確認してから抹殺すべきだったのではなかろうか。
でないと、どう足掻いても北村に「香山殺害」の疑惑が付きまとうことになるのに……。
どうも、大下の行動にモヤモヤが募りました。
ちなみに、北村が現職を続けられるということは「香山への制圧は適正な範囲内であった」との結論になるのでしょうか。
此の点も気にかかりました。
ふと思ったんだけど、アイドル事務所と看守業を扱った作品って稀有な気がする。
そう言えば、看守が物語の中心ということで横山秀夫先生『看守眼』を思い出しました。